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「アーティストさんが書く歌詞と同じものを書いて、『作詞家です』と言ってはダメ」藤林聖子が語る、作詞家としての矜持(後編)Hey!Say!JUMP、三代目J Soul Brothers、GENERATIONS from EXILE TRIBE、w- inds.、BIGBANGや、E-girls、水樹奈々、東京パフォーマンスドール等のほか、『ONE PIECE』『スーパー戦隊シリーズ』『平成仮面ライダーシリーズ』などアニメや特撮作品にもかかわる作詞家・藤林聖子のインタビュー後編。前編では彼女のキャリアやジャンルを横断するための注意点について訊いたが、後編では若手作詞家へのアドバイスや、『Music Factory Tokyo presents「Music Creators Workshop」~作詞編~「言葉の幅〜特撮・アニソンからアーティストものまで〜」』の感想などについて、熱く語ってもらった。
>作詞家・藤林聖子が語る、多ジャンルを横断するコツ「あまり“自分の核”を持ち過ぎないように」(前編)
取材・文:中村拓海
写真:竹内洋平
――作詞家として、一日をどのように過ごされているのでしょうか?
- 藤林:
- 何時に寝ても11時にしか起きられないのですが、そこから犬の散歩や家事をして、12時半くらいから仕事を始めています。で、19時半ごろまで集中して作業をし、少し休んでまた再開する、という感じですね。
――作詞を手掛ける方からは、「書く時間によって内容が変わる」とよく伺います。藤林さんはどうでしょうか。
- 藤林:
- 確かに、日の入りが早くなると、落ち込みやすくなることはありますね。「こんなにテンションが上がらないの、どうしてだろう。あ、暗くなっている」みたいな(笑)。だから歌詞にも“儚さ”のようなものが出てくるし、明るい歌詞を書こうと思うと、自分の気持ちを強火にしなきゃいけないんです。あと、夜中に書いたものに関しても、提出するときに恥ずかしくなっちゃうようなものが多いので、書いても時間を置いていますし、なるべく書かないようにして「明日やろう」と寝かせています。
――作詞家を目指す方たちに対して、「まずはこういうものを学んだほうがいい」というものはありますか。
- 藤林:
- まず、基本的に、アーティストさんが書く歌詞と同じものを書いて、「作詞家です」と言ってはダメだとは自分では思っています。なかには自身でマーケティングしながら書いている方もいますが、基本的にアーティストさんは心の叫びを歌にしています。しかし作家は、より広い目線で世の中を見て、ストーリーを描くべきではないでしょうか。そして歌い手さんありきの仕事でもあるので、その俯瞰性をいい深みにちゃんとつなげて、その方が歌う意味も演出していくのが大事です。そういう風に意識をして取り組むことで、その人にしか書けない世界観が描けるようになってくると思いますね。
――どんな作品に対しても、俯瞰で取り組むということですね。その目線を保つためのコツとは?
- 藤林:
- 「思い込みが強過ぎるとダメ」というのは、自分の経験からもすごくあって。過剰なエゴみたいなのって、何となく作品にもにじみ出ちゃうのかなという気がするんですね。だから、強火であったとしても、冷静さはどこかで持っていてほしいですし、バランスを保っていてもらいたい。そうじゃないと、歌い手さんのエゴとぶつかってしまうので。
――8月29日に開催された『Music Factory Tokyo presents「Music Creators Workshop」~作詞編~「言葉の幅〜特撮・アニソンからアーティストものまで〜」』では、受講者に作詞課題を与えていましたよね。提出された作品には、どのようなバリエーションがありましたか。
- 藤林:
- 面白かったですよ。火力強めで「!」マーク多めな歌詞の方に関しては「ライダーファンだろうな」とすぐにわかりました(笑)。そんな方もいつつ、やはりプロを目指している方が集まっているだけあって、構成力が光る作品も多々ありました。
――受講者には若い方が多かった印象ですが、次世代の作詞家が書く詞に触れて感じたことは?
- 藤林:
- そうですね。良い意味でも悪い意味でも、すごく真面目だなとは感じました。もし私が提出する側の立場であれば、「何としても目立ってやろう」と意気込むと思うのですが、今回の方たちは、真剣に、真面目に取り組んでいただいている印象を受けて。
――秀作が多い反面、コンペにかけたときに目を引くような、尖ったものが少なかったということですね。
- 藤林:
- はい。アプローチもストレートなものが多くて、驚きは少なかったです。ジャンルを問わず、捻りみたいなものはもう少しあっても良いのかなと思いました。自分の表現に最初からリミッターを掛けなくてもいいので、もっとぶっ飛んだものを見たかったかもしれません。
――藤林さんの思う“ぶっ飛んだ歌詞”とは?
- 藤林:
- 今回一人だけ、お題の中に潜ませていた「青いタコ」というワードに対して<くねくねブルー>というワードを使ってきた方がいて。「俺が面白いと思っているんだから、いいでしょ」って、ちゃんと提出できる勇気がある方なんだと感心しました。特別に何か賞を上げたいくらい(笑)。
――確かにキャッチーで目を引くものがありますね。ちなみに、若い世代ならではのワード感、みたいなのはありましたか。
- 藤林:
- 世代ごとの違いはそこまで感じなかったです。みんなタイムレスなものを作ろうという気概を持っていたのかもしれませんね。ただ、ポップスを目指している方と、アニソン・特撮の詞を書きたい方は、カラーが違うなと並べてみてハッキリわかりました。
――それぞれどういう違いなのでしょう?
- 藤林:
- J-POPを志している方は、心情に寄り添ったものが多いという印象で、アニソン・特撮寄りの方は、戦いだったりコンセプト自体にフォーカスを当てているのかなと。歌詞で描く情景が、明確に違っていたように見えました。
――先ほど村上春樹さんの名前が挙がりましたが、近年の文筆家で、藤林さんの詞世界に影響を与えた方はいらっしゃるのでしょうか。
- 藤林:
- 作詞家になってからは、あまり本を読まなくなりましたね。いつの間にか影響されちゃうので、お休みの日のご褒美に少し読むくらいです。近年は新しい作家さんもかなり出てこられたので、もっと読みたいところではありますが。
――ちなみに、藤林さんが注目されている作家さんとはどなたでしょうか?
- 藤林:
- 書く文が世界観・空気感として成立しているという意味では、捉えて離さないというか、離れられないタイプの作家さんが好きかもしれません。最近だと、西加奈子さんや桐野夏生さん。西さんは独特のリズムがあって、日本にいるのに海外にいるみたいな情景や、不思議な空間に持っていかれる感じがします。桐野さんは、衝撃的な言葉を数多く使われていて、ヒリヒリ感が刺激的だし、展開もすっきりしたものが多いですね。
――本を意図的に読まなくなったぶん、何を見てエネルギーを充電していますか。
- 藤林:
- 映画や海外ドラマに熱中していて、クエンティン・タランティーノやロバート・ロドリゲス、ガス・ヴァン・サントが描くような、逆ギレ的な世界観が好きです(笑)。海外ドラマだと『セックス・アンド・ザ・シティ』はバイブルだし、『HEROES』も全部見ました。あと、最近面白かったのは、『HOMELAND』ですね。
――海外の話になりましたが、英語詞と日本語詞を比べたとき、後者ならではの難しさとは?
- 藤林:
- 日本語を使って、短いワンセンテンスで派手な言葉は作りにくい。英語のほうが音の跳ね方もカッコいいし、キマっている感じがしますよね。あと、英語はリズムに乗せやすくて、日本語は子音が立ってしまうのでグルーヴしにくい。
――そのなかで言葉を跳ねてグルーヴ感を出すテクニックはあるのでしょうか。
- 藤林:
- 歌い手さんにもよるのですが、レイドバック気味にしゃくったりする歌い方だと、跳ねる部分がそもそも歌いにくいことがあるので、意識させないようにすることが多いです。それでもあえて跳ねさせるなら、言葉を詰め込めば自然とそうなっていきやすいかもしれません。
――ワークショップでは、“言葉の幅”をテーマに講義が行われました。あらためて、このテーマについて聞かせてください。
- 藤林:
- 縛られ過ぎないというか、「自分がこうあるべきだ」「あの人はこうだ」とか、「作詞家はこうあるべきだ」みたいな考え方をするのではなく、ある程度こだわらずにやってみよう、という感じですね。
――講義を聞くまでは、てっきり「幅を決めてやりましょう!」という話なのかと思っていました。
- 藤林:
- すべてが同じフォーマットで進むと、色んなものが似通ってくるし、そこにオリジナリティがどんどんなくなっていく。だから、あまり何かで縛ろうという考え方はないし、自分の中で決め過ぎると不自由になっちゃうので、別の主軸を持った方が、自分の中でいろんなところにフィットしやすいのかなという気はしますね。逆説的な話で申し訳ないですが。
――これまでも数多くのチャレンジをされていると思いますが、今後挑戦したいことはありますか?
- 藤林:
- 音楽という中でも、もう少し別の軸で表現をしたいな、と思ったりしています。特になにか決まったことがあるわけではないのですが、作詞家としてのスタンスは保ちつつ、もっと行ける場所を増やしていきたいですね。
――最後に、作詞家を目指す若い方たちにメッセージをお願いします。
- 藤林:
- 気楽に「ダメでもいいじゃん」とか、「これがわかんねえヤツなんてダッセェよ」ぐらいの強気な感じでグイグイ来てほしいですね。何かを始めるときって、萎縮しがちだけど、継続すればするほど、より色んな制約に縛られるようになるので。だったら最初くらい自由であってほしいですし、小さくまとまらずにやんちゃにやってほしいと思います。
藤林聖子(Shoko Fujibayashi)
1995年作詞家デビュー。サウンドのグルーヴを壊さず日本語をのせるスキルで注目され、独特な言葉選びにも定評がある。
E-girls の大ヒット曲「Follow Me」を始め、平井堅、水樹奈々、BENI、三代目J Soul Brothers、Hey!Say!JUMP、w-inds.、BIGBANG、BOA、T-ARA、等様々なジャンルのアーティスト作品から、テレビアニメ『ONE PIECE』主題歌「ウィーアー!」「ウィーゴー!」、『ジョジョの奇妙な冒険』『ドキドキ!プリキュア』等の主題歌や仮面ライダーシリーズ、スーパー戦隊シリーズ、更にはドラマ主題歌、映画主題歌、その他CMソングまで多岐に渡って活躍。映像作品の芯を理解しアーティストの世界観として創り上げる能力とスピード感にも定評がある。
藤林ワールド全開の2014年NHKみんなのうた「29Qのうた」(歌:つるの剛士)も話題に。年間約100曲、作詞1本で多方面に及び活躍する稀有な存在として注目される作詞家。
オフィシャルサイト
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