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  • 「作家の活躍できる時代が戻ってきた」zoppが明かす、作詞家を取り囲む状況の変化(後編)
    修二と彰「青春アミーゴ」や、山下智久「抱いてセニョリータ」など、数々のヒット曲を手掛ける作詞家・zoppへのインタビュー。前編では、彼が新たに執筆した小説『ソングス・アンド・リリックス』を題材に、作詞家が小説を書く意味や、それによって得た新たな技術などについて語ってもらった。後編では、作品で描かれている作詞家特有の悩みや「ゴーストライター問題」などに話が及んだ。
    取材・文:中村拓海


    ――zoppさんは普段どのような小説を読むのでしょうか。

    zopp:
    恋愛小説は苦手で、ミステリーの方が多いですね。好きな作家さんは宮部みゆきさんと伊坂幸太郎さん。あまりベテラン過ぎない方のほうが感情移入しやすくて読みやすいのかもしれません。

    ――今回の作品は作詞家になるまでのサクセスストーリーを描いたものと聞いていたのですが、読んでみるとミステリーの要素がある程度入っていて。これはzoppさんの趣向も影響していたんですね。

    zopp:
    「作詞家を目指す男の話」という部分にフォーカスが当たっているのですが、内容を書店員さんに話すと「すごく面白そう」と言ってもらえますし、読み終わった知人からは「よくここまで書くな」と苦笑いされました(笑)。

    ――苦笑されたのは、小説内で描かれている“業界の裏側”部分ですよね?

    zopp:
    フィクションとノンフィクションをごちゃ混ぜにしているので、業界内の人は「そこまで書くの!?」と驚くでしょうし、一般の方でも「どこまでがノンフィクションなんだろう」と疑っていただけるようになっています。

    ――とくに“ゴーストライター問題”は、近年世間を賑わせた話題だったので、どこまでが真実だろうかと気になりながら読みました。

    zopp:
    業界として、弟子が師匠のお仕事を手伝うというテイで、ゴーストライター的な制度があることは事実です。ただ、この本で書かれている「先生の言いなりになる」のとはまた別で、お互いが納得したうえでやっている例がほとんどですが。僕はそういうのが嫌で、どちらかというと後輩や生徒にどんどん活躍して、業界の方から「あそこの作詞クラブはすごい」と言われるようになりたいんですよ。

    ――作品内では、作詞家が契約書を読まなかったがゆえにトラブルに巻き込まれる様子も描かれています。これは実際によくあることなのでしょうか。

    zopp:
    少なくとも、契約書は基本的によく読まない人の方が多いでしょうね。音楽家や音楽作家は、まずプロとして契約することが困難なので、しがみついてでもそっち側へ行きたいと思う人ばかりだし。だからこそ、この本を読んで契約書の重要性をしっかり理解してもらいたいです。

    ――なるほど。話を技術的な部分に戻すと、読者はこの作品で作詞家が育っていく過程を通して、作詞論を学ぶことができるわけですが、大事なこととして“比喩表現”を挙げていましたね。先日行なわれた発売記念トークイベントでは「比喩は『間接的にわかりやすく表現すること』だが、最近は『難しいことをやればいい』という概念が横行している」と語っていました。

    zopp:
    「難しいことをやる」というのは、コンペで他の参加者と差別化をしていくということで。ストレートに表現することは正しいか間違っているかでいうと正しいのですが、他のものと並べたときに勝つか負けるか、ということに関してはまた別です。

    ――“正しいけど負けるもの”とは何でしょうか。

    zopp:
    例えば、雨が降っていることを「空が泣いている」と表現するとか。詞的だけどベタな表現は、一番差別化できにくくて引っ掛かりが生まれにくい。ちなみにJ-POP特有の表現として、人間の一生を花に例えることが多いのですが、とあるディレクターさんから、僕は作詞のときに「花」をあまり使わないと指摘を受けました。無意識のうちに自分で差別化を付けようとしているのかもしれません(笑)。

    ――ほかにもイベントでは、ご自身のとある代表曲のタイトルをクライアントさんに付け変えられ、それが予想外にヒットしたという面白いエピソードもありました。

    zopp:
    おそらく売れないだろうと思っていたタイトルがものすごく流行ったので、あのときに「タイトル一つでこんなに違うのか」と痛感しました。もうひとつ、自分の価値観を変えたのは筒美京平先生です。数年前にお仕事でご一緒させていただいた際、「筒美さんが作詞をするうえで、作詞と作曲ってどっちが大事だと思いますか?」と質問したんです。当時はクリエーターの人に会うたびその質問をしていたのですが、自分の中では「もっと作詞家を褒めてよ!」と思っていて。そんなときに筒美さんは「基本はフィフティー・フィフティーだけど、とある理由で作詞のほうが大事だ」と言ってくれたんです。

    ――とある理由とは?

    zopp:
    それが「作詞家はタイトルを決めることができる」という理由でした。作曲家さんは楽曲を作った時点で仮のタイトルを付けるのですが、それが採用になることはほとんどなく、曲先が多数という状況も加味して、後から詞を付ける作詞家がタイトルを決めることが多いんです。

    ――なぜタイトルを決めることができると有利なのでしょうか。

    zopp:
    楽曲ももちろん大事ですが、タイトルが売り上げを左右するからです。ネットニュースやSNSが年々勢いを増しているこの時代にだからこそ、キャッチーなタイトルの曲を発表するだけでも記事になり、プロモーション効果がありますからね。

    ――たしかにそうですね。しかもタイトルで盛り上がる楽曲の多くは、バンドよりもアイドルやシンガーなど、職業作家が手掛けるアーティストに提供されることが少なくない。だからバンドが隆盛した1990年代後半から2000年代初頭は、普遍的なタイトルの楽曲がウケたということでしょうか。

    zopp:
    そこまで断定するものではないのかもしれませんが、シンガーソングライターとバンドが同時に台頭したことで、作詞家の重要性が薄まってきたのは確かです。歌詞のトレンド自体も、純文学的なものから徐々にヒップホップのような日常会話風のものに変わっていったりして。でも、2000年代後半からはアイドルが再び覇権を握ったことにより、作家の活躍できる時代が戻ってきました。ただ、現段階では作詞にそこまで文学性は求められないので、これから徐々に取り戻していくのだろうと期待しています。

    ――小説は1作目は完全なフィクション、2作目はフィクションとノンフィクションの混合でそれぞれ執筆しましたが、次作以降の構想はあるのでしょうか。

    zopp:
    今後は2作目の路線を踏襲して、なるべく音楽業界を舞台にした話を書いていきたいと思っています。『ソングス・アンド・リリックス』では若い子がプロの作詞家になるまでを書きましたが、プロになって以降の戦いに関しては割と端的にまとめたので、今度はそこをしっかり描こうかなと。ほかにも、ベテラン作詞家を主人公にするのも面白そうだなと考えています。ベテランだからこそ味わう苦労もあると思いますし、一度メインストリームから零れ落ちた人も、ヒットを打てばあっさり再ブレークできるという音楽業界の面白い構造も取り上げてみたいですね。

    ――すでに読み終えた知人友人から、「こういうものを書いてほしい」というリクエストはありますか?

    zopp:
    主人公である黒崎と、彼に立ちはだかる風祭の対決をまだまだ見たいという声は多かったですね。ここに関しては僕も書きたいなと思っているので、何らかの形で出せるように頑張っていきます。

    ▼出版情報


    タイトル:ソングス・アンド・リリックス
    発売日:2016年1月15日
    発売元:講談社文庫

    ▼プロフィール

    zopp
    1980年2月29日生まれ

    アメリカ、マサチューセッツ州ボストンの大学でコンピューターテクノロジー専攻。

    16歳の時、初めてのアメリカ留学を経験。その時に勉強の延長線上で様々な海外アーティストの歌詞を翻訳している内に、作詞の世界に魅せられ作詞家を目指す。作詞活動と並行して、作詞家の育成(zoppの作詞クラブの講師)、ネーミング等を考える(コトバライター)、テレビ出演など、多岐にわたって活躍の場を広げている。

    2013年11月11日に、初小説「1+1=Namida」(マガジンハウス)を上梓し、小説家デビューを果たす。





    2016.03.08

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