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  • 「飾るというよりは本質の部分を磨きあげる」 星野純一×あいみょんが考える音楽の魔法とは?(後編)
    GReeeeNやHappiness、ハジ→、小松未可子などを手掛けるプロデューサー・編曲家の星野純一(以下、星野)と、5月20日に『tamago song』をリリースするシンガーソングライター・あいみょんによる対談。前編では星野とあいみょんの音楽遍歴や2人のやりとりがきっかけで生まれた楽曲について語ってもらったが、後編では『tamago song』のレコーディング秘話や、2人の目指す方向性、そして“音楽の魔法”について、存分に話してくれた。

    >星野純一×あいみょん特別対談 プロデューサーとシンガーが語る楽曲の“美味しさ”(前編)


    取材・文:中村拓海
    写真:下屋敷和文

    ――「○○ちゃん」と「強がりました」に関してはどのように工夫しましたか?

    星野:
    「強がりました」は最初に仕事をしたときで、わりと探り探りだった印象があります。「○○ちゃん」は結構大変だったよね。この曲はアレンジが2パターンありまして。最初は「カントリー系のアレンジで」と頼まれたんですよ。ただ、本チャンを録り終わってから「やっぱロックがいいと思います」と言われて、歌はそのまま、トラックを作り直しました。 
    あいみょん:
    その節はありがとうございました! どっちを選ぶかめっちゃ悩みましたけどね。
    星野:
    全然、ロックがいいと思ったよ。もともとロックにしたかったし。
    あいみょん:
    本当ですか? じゃあ、良かったです。最初の弾き語りで歌ってた曲とまったく違うものだったから、最終的にいいところに落ち着いてよかったです。
    星野:
    本当に良かったし、そういう意味では一緒に美味しくできたと思いますよ。音楽業界って最終的に「綺麗に見せよう」「綺麗に録ろう」という話に終始しがちですけど、そこに乗っけるとつまらなくなることってけっこう多くて。だから「○○ちゃん」は、曲のの持つ、あいみょんのおいしさに、ただ僕が寄り添って盛り上げただけです。
    あいみょん:
    私は「強がりました」に手こずりました。この曲をレコーディングしているとき、自分の中で声の調子がすごく悪かったんです。自分の曲なのに歌うのが難しくて。
    星野:
    音域かもね。あの当時録音してた曲は音域の高いものが多かったから「強がりました」はそれと比べて低いから難しかったのかも。ただこの音域のあいみょんも凄くいい。あいみょんって自分の声のスイートスポットをよく知ってるよね。

    ――仕事を重ねていくなかで、お互いに慣れてわかっていくこともあれば、それぞれのこだわりを入れていく部分もあるのでしょうか。

    星野:
    基本的に、あいみょんのベースは「反骨精神」だと思っているんです。今はまだ、ロックミュージックの中にいる存在だと思うけど、この先、どんどん幅は広げていける。ただ、「まっすぐはいきませんよ」という感覚は骨格にあるというか。
    あいみょん:
    よく言ってますよね。私もそれは思っていて、きれいすぎるものには興味がない。
    星野:
    ちょっと毒が入っているから、それを抜き出すために弾き語りのデモ音源を何度も何度も聴くんです。彼女の場合は、デモの中に答えが詰まっていることが多いので。いわゆる普通のJ-POP曲と違うのは、あいみょんの場合は「いかにこの子の旨味を引き出すか」に集中出来るというか。“プロデューサーズミュージック”より“アーティストミュージック”で、飾るというよりは本質の部分を磨きあげるという感じですね。

    ――装飾するよりも引き出すということですね。さきほど「反骨精神」という言葉が出ましたが、あいみょんさんはご自身でどう意識していますか?

    あいみょん:
    意識して反骨精神を曲にしようと思っているわけではないですが、小慣れてしまうのは嫌なので、「曲作りたくないな」って思ったら、一ヶ月くらい作らないこともあります。「作らなきゃ」って思いだした瞬間に手を止めて寝ようと決めているんですよ。作り物の歌になってしまいそうで怖くて。だから今書いている歌も思ったこと、言いたいことを正直に書いているだけなんですよ。

    ――星野さんはこれまで数多くの女性シンガーを手掛けていますが、彼女たちに共通するアレンジのコツのようなものはあるのでしょうか。

    星野:
    録るときの対応の仕方は共通項があるかもしれません。もちろん、人によって違うんですけど、やはりなるべくいい状態で歌ってほしいと思いますし、大体声を聴けば調子がわかるので、体調にはかなり配慮しますね。たとえば、あいみょんでも本当にちょっとした違いなんですけど「今日、声が疲れてる?昨日、ライブだったの?」とか。そこでの対応は男性よりもデリケートに行います。“今日のコンディションなら、とりあえず気分から盛り上げていこう”とか、“このくらいのスピード感で録ったほうがいいかな”とか“今日は調子良さそうだから、つるっと行ってみようかな”とかその時その時で臨機応変に録り方も変えています。あいみょんに関しては、リズムやピッチのことで録り直すことはほとんどなくて、「1サビはもうちょっとテンション下げて歌ったほうがいいんじゃないか」や「ここは切ない感じで歌ってみようか」など、ニュアンス的なものが多いです。
    あいみょん:
    本当にいつも細かくアドバイスを頂き、かなり気を遣ってくれます。「声大丈夫? しょうが湯飲む?」とか(笑)。

    星野:
    確かに(笑)。でも、あいみょんってあまり声の調子に差がないんですよ。常に仕上がってるから「すごいな、プロだな」と思います。
    あいみょん:
    でも、私は健康面とか全然意識してないですよ。ほかの女の子に比べたら、喉のケアとかしてないし。まだイソジンでうがいすることすら恥ずかしいです。ライブでも「最初に声ください」って言われて「Haa」とか「Hey」とか言えなくて(笑)。そういうときにまだアーティストになりきれてない自分がいると感じますね。
    星野:
    それはそのうち出来るよ。あいみょんはいつも楽しんでやってくれているので現場が明るいし、こちらも非常にやりやすい。そういう能力のほうが大事。
    あいみょん:
    本格的なレコーディングが初めてだったので、楽しかったです。星野さんとのレコーディングは、話してる時間が長いですね。
    星野:
    2時間くらい話して3テイク録って終わりとかだもんね。

    ――あいみょんさんの声は、ロックに合うと感じますか?

    星野:
    反骨精神があるからでしょうね。そういう印象は確かにあります。それをスポイルしたくはないし、「○○ちゃん」の話を例に挙げると、今の時流でカントリーをやるのって、今の若いコには新しく感じるだろうし、テイラー・スウィフトの流れもあるから不思議じゃないし、むしろ定石だと思う。けど、そのレールに今の彼女を乗せて、プロデューサーミュージックにした途端に、耳馴染みは良くなるけどいい意味でのエッジ感、面白さが和らぐというか、今はタイミング的に真っ白なキャンバスに絵の具をぶちまけて、手でグチャっとやる時期なんだと思うんですよ。そんなタイミングと実直な歌詞のテイストも相まってロックが合うと感じるんだと思います。ただ、ロックという音楽ジャンルに留まる必要は全くないと思っています。スピリットとしてのロック感は簡単に消えないと思うので。

    ――時流という言葉がありましたが、今のJ-POPシーンにはどういう流れがあると考えていますか。

    星野:
    装飾要素の多い曲やアーティストが受けていると感じます。架空の世界、ファンタジーな要素の入っているものほうが耳馴染みがよくて、すっと入っていけるんだと思います。飾った感じが日本らしさになってきてるという印象です。そういう意味ではあいみょんは少し異質な存在だと思います。ただ、あいみょんの場合、装飾する必要がないので、そこが逆に強みだと思います。被るアーティストがほぼ居ないと思うので、ファーストアルバムには今の時流に変化をもたらせるだけの可能性があると思うし、ファーストアルバムって自己紹介的な意味合いも多いので、今回に関しては時流とかは気にする必要はないと思っています。いまはギターで作ってるけど、これからピアノを始めるかもしれないし。そのうち憧れてる小沢健二さんのような曲を作れるようになれるかもしれないから、僕としては今はなるべく核の部分を伸ばして欲しいです。本質の部分でいいものを作れちゃうんですよ、あいみょんって。それってなかなか出来ることじゃないので。
    あいみょん:
    知りすぎるのも嫌なんですよ。私はもちろん音楽が好きですけど、ひとつのことを完成させるというか、作るのが好きなだけなので。レコーディングもすごく楽しいけど、くわしく知ろうとすると、雁字搦めになって曲ができなくなるのが怖い。
    星野:
    とりあえず、いま曲のストックはどのくらいあるの?
    あいみょん:
    120~30曲ですね。
    星野:
    200曲くらいまでは現在のスタイルで作って、そこから新しい形にしてもいいかも。
    あいみょん:
    はい。いろんな方から「今しか書けない曲がある」と言われているので、まずはそこを重視します。1年前は10曲くらいしかなかったですから。
    星野:
    そのちょっと前くらいの時に、あいみょんに「100曲作りなよ、今年中に」なんて言ってたら、あっけらかんと本当に作っちゃったのには本当にびっくりした。
    あいみょん:
    自分じゃ何がすごいかわからなかった。一ヶ月に10曲作るときもあれば、二ヶ月間なにもしないときもありましたし。
    星野:
    それまでは「歌が上手い子」という印象だったのが、書いてくる曲が全部面白いし、詞もすごく良いから「この子、すごい」と改めて思った。

    ――あいみょんさんは今後、楽曲において取り組んでいきたいことはありますか?

    あいみょん:
    あまり意識はしていませんが、よく「変わらないでいて欲しい」と言われるんです。でも、人間て変わっていく生き物ですし、これから大人になっていくわけですから、変化を恐れずに書きたいものを書き続けたいです。
    星野:
    人間だから変化は当然していくと思うけど、意識せずとも核部分ってそんな変わらないので、気にせずその時その時のあいみょんの感覚でまっすぐ作り続けたらいいと思うよ。

    ――活動面において2人が取り組んでいきたいことは?

    あいみょん:
    やりたいことが多すぎて、音楽だけで生きていきたいとは思っていないんですよ。本が好きで映画が好きで、パン屋にもまだなりたいし。
    星野:
    パン屋はまだ残ってるんだ (笑)。
    あいみょん:
    当たり前じゃないですか。あと、写真が好きでカメラマンになりたい時期もありましたね。音楽だけにのめり込まず、いろんな趣味はずっと続けていきたいです。時間がなくても映画は絶対に観ていたいし。私生活を忘れないようにしたいです。

    ――インプットし続けることで生まれるものも沢山ありますしね。

    あいみょん:
    はい。色んなことにチャレンジしたいです。今は楽曲提供のお仕事も頂いたんですけど、作っている中で自分で歌えない曲もあるので、そういった形でアウトプットできるのは嬉しいです。あと、スポーツも始めてみたくて、ロッククライミングに興味が沸いています。
    星野:
    本当にたくさんだね(笑)。僕は、新しい景色を常に探求したいタイプなので、常に成長し続けたいですね。 景色が変わっていくなかで、自分の世界を広げ、楽しんで行きたいと思うし、それが音楽なのか、ロッククライミングなのかはわからないけど(笑) 音楽という形でしっかりアウトプットできれば、今まで沢山音楽にお世話になってきたので、少しは音楽に恩返し出来るかなと。現状、本質的な意味での音楽がちょっと盛り上がってないよなという気がしているので、 色んな人が言ってる「音楽業界が低迷している」とかそういうことじゃなく、単純に音楽でワクワクすること、音の魔力が落ちたなと感じることが多いので、もう1回、音楽で魔法にかかる人を増やして、自分たちが体験したのと同じように「音楽ってすごいよ」っていう感動を沢山の人に味わってもらいたいです。

    ――1曲聴いただけで「音楽を始めよう」と思うようなものですね。

    星野:
    クリエイティブなコンテンツって、どんなものでも魔法じゃなきゃダメだと思うんです。小説だろうが映画だろうが音楽だろうが、人を魔法にかけてしまう力がないと面白くない。
    あいみょん:
    ちなみに、星野さんが魔法にかかったと思った音楽って何ですか?

    星野:
    うーん…、高校生くらいのときは、たくさん魔法にかかってたよ。尾崎豊もフリッパーズ・ギターもいたけど、当時はわりと洋楽に影響されてたから。小さいころならカーペンターズ、パティ・オースティンかな。最近はなんだろ?
    あいみょん:
    そうなんですね。私はスチャダラパーと小沢健二さんかな。結論、星野さんは魔法使いになるってことですね。
    星野:
    「将来の夢:魔法使い」って危ない人みたいだね(笑)。でもそんな感じかな。人の心を動かすグッとくるものを作り続けたいし、それに挑戦することは辞めたくないですね。




    あいみょん

    1995年生まれ。兵庫県西宮市出身&在住のシンガー・ソングライター。
    6人きょうだいの2番め。
    かつて歌手を夢見ていた祖母や、音響関係の仕事に就いている父親の影響で幼少の頃より音楽に触れて育ち、中学の頃からソングライティングを始める。
    高校卒業後、主に唐揚げや富士宮やきそばを売るバイトをしながらYouTubeに楽曲をアップしはじめ、ネット上で話題に。
    2015年3月4日、タワレコ限定シングル「貴方解剖純愛歌〜死ね〜」をリリースし、19歳でデビュー。過激な歌詞が話題となり、各局で放送NGとなりながらもオリコンインディーズチャートでトップ10入りする。
    2015年5月20日、初の全国流通盤となるミニアルバム「tamago」をリリース。
    オフィシャルサイト


    星野純一

    作曲、アレンジ、レコーディング、ミックス、マスタリングまで音楽制作の全ての過程をこなすトータルプロデューサー。
    Every Little Thing、ハジ→、平原綾香、GReeeeN等アーティストへの楽曲提供、アレンジ、サウンドプロデュース。またCM、劇伴等、インストものも数多く提供。
    自身のアーティスト名義のTOKYO COUNTERPOINTでは海外レーベルから沢山の作品をワールドワイドにリリース。自身のホームグランドであるSound Kitchen Studioを運営するSound Kitchen Inc.代表も務める。
    オフィシャルサイト

    2015.05.27

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